社会調査法入門第7回の振り返り

投稿者: | 2023 年 6 月 6 日

5つの分類のうち、行政調査と世論調査(模擬投票、壮丁教育調査)、福祉調査、学術調査、市場調査の3つ目、福祉調査(家計調査、地域実態調査)のつづきでした。

ブースの調査を補足しながら進めました。

イギリスのブース Charles Booth, (1840-1914)による調査

  • ロンドン市民の生活と労働』 Life and Labour of the People in London 全 17 巻(1891-1903)(ヨーロッパの労働者』)
  • 1886年からロンドンの労働者の生活調査を行いました
  • 1つの地域を精密に調べる社会調査という方法を編み出した
  • ロンドンの民衆の生活と労働 (Wikipedia)。

操作的定義

  • 実際に調べるために、貧困とはどのような状態か具体化した
  • ロンドンの市民を7つの階級に分け、そのうち4つが貧困階級
  • 貧困の上限を「週あたり18-21シリングとわずかではあるが十分規則的な収入のある人々」とした
  • 貧困の基準を明確化したことにより、ほかの様々な地域との比較も可能となった

その結果。31%が貧困線以下の生活を強いられていることを実証してみせました。

Charles Booth’s London には、poverty maps(貧困度合いが色分けされた住宅地図)がアップされ、詳細な住宅地図上に貧困具合が色分けされています。

また、地図上に人工などの統計データを円の大きさで表す方法(同心円モデル)を編み出したことも偉大な業績の1つです。こうして貧困の発生率を職業、住居、地域などと関連づけました。

その結果、原因は、怠惰や飲酒などの個々人の習慣によるものでなく、人々をとりまく社会環境上の問題や雇用条件の問題にあることを強く主張しました。


ロンドンでの調査を受けて、北部のヨーク市における貧困調査(計3回、1899,1935,1951)がラウントリー(Rowntree社)によって行われました。

第一次ヨーク調査(1899年)

  • ヨークの貧困層の生活状態について、全ての労働者階級の11,560世帯、46,754人を対象として訪問する、広範な全数調査を実施(1901年『Poverty, A Study of Town Life』)
  • poverty(貧困)by Benjamin Seebohm Rowntree:Internet Archive
  • 貧困線 (a poverty line)」を導出
    • 健康的生活に要するものを確保できる、それぞれの家族が毎週必要とする最低限の金額
    • 光熱費、家賃、食料、衣服、世帯や個人の小物類の費用を賄う経費に相当
    • ヨークにおける食料品の価格を調査し、地域で最も安い食料品の価格を基に、最低限の飲食物を買い求めるのに必要な金額を世帯の規模によって調整し、計算
    • それまでの貧困研究では用いられていないもの
    • 例えば、当時一流の栄養学者たち (nutritionists) に助言を求め、人々が病気になったり、体重を減らしたりしないために必要となる、最低限のカロリー 摂取量や、栄養バランスについても見出そうと試みた
  • さらに、労働者の一生の経済的浮沈を貧困曲線に示し家族周期と経済的浮沈が関連していることを発見
  • また、貧困線を下回っている貧困層を、その貧困の理由によってふたつのグループに分類。
    • 一次貧困 (primary poverty) の状態にある世帯
      • 基本的な生存に必要な物資を賄うのに必要な支出に見合うだけの収入を得ていない
    • 二次貧困 (secondary poverty) に分類された世帯
      • 基本的な生存に必要な物資を賄える収入がありながら、金銭を、飲酒や賭博など別の方面で消費してしまい、生活に必要な物資を賄えない
  • 貧困の循環 (poverty cycle)」
    • 人生のある一定の段階にある人々、例えば、高齢者や子どもたちは、他の年齢層に比べ、貧困線より下の深刻な貧困に陥りやすい
    • 絶対的貧困 (absolute poverty) に陥ったり、そこから抜け出したりという往還を、人生の途上で経験する人々もいる

このようにして、地方都市においても第1次・第2次貧困線以下の労働者世帯が約3割存在することを実証しました。

貧困は低すぎる賃金がもたらす帰結だとするものであり、伝統的に考えられていた、貧困は貧困者自身に責任があるという見解に異を唱えるものでした。

ブースの調査と合わせて、貧困が英国全体の問題であることを示し、国家の福祉政策を進める道を切り開いた研究として、その意義が語られてきました。

第二次ヨーク調査(1935年)『Poverty and Progress』(貧困と進歩)1936

  • 必要と認められる費用として、新聞、本、ラジオ、ビール、タバコ、休日の 支出、贈答品が組み込まれた
  • その結果、貧困の原因が数十年の間に大きく変わった
  • 1890年代には、一次貧困の大きな理由は低賃金であり、52% に達していた
  • 1930年代には失業が 44.53% を占め、低賃金はわずか 10% になっていました。
  • 必要な物資の範囲を広げたにもかかわらず、貧困状態にある住民の比率は、1936年には 18%、さらに1950年には 15% と減少していました。

第三次ヨーク調査(1951年)

  • 1951年『Poverty and the Welfare State』(貧困と福祉国家)、調査助手のG・R・レイヴァース (G. R. Lavers) 海軍中佐と共作)
  • 以前の調査が全数調査であったのに対し、標本調査の手法が用いられた
  • 1950年代、すでに絶対的貧困は、高齢者の一部など局所的に残存してはいたものの、もはや大きな問題ではなくなっていた
  • 拡大されてきた様々な福祉の提供によって、残存する貧困もやがては根絶されるものと考えられていた
  • 貧困の克服は、1950年代の「ゆたかな社会 (affluent society)」の到来による 経済成長によって、また、政府の完全雇用政策や、福祉国家の成功によって達成された
  • 福祉国家の運営は、富裕層から貧困層への富の再分配を実現し、労働者階級の生活水準を引き上げた

20世紀に入ると、ピッツバーグやスプリングフィールドなどの工業都市で、同様の調査が行われています。

イギリスの話はここまで。


日本でも、家計調査が行われてきました。

人々の生活状況を組織だった形で調べるとすると、まず家計状況を調べるのが適切です。

高野岩三郎(1871~1949)による、1916(大正5)『東京ニ於ケル二十職工家計調査』が本格的福祉調査の最初と言われています。

  • 家計簿方式で調査対象世帯に収支を記入
  • 対象者は20世帯、労働者団体である友愛会会員中の希望者に1ヶ月間実施

以下、時系列で並べます。

1926年(大正15年) 内閣統計局が行う(指定統計)

  • 労働力問題、その他社会問題解決のための基礎資料を得るため
  • 調査世帯数は約6,500に及び、期間も1年間継続して調査

昭和6年

  • 米穀法の改正。米価を決める基礎資料の1つとして家計費が用いられた
  • 約2,000世帯、9月から1年分までまとめて家計調査報告として刊行

昭和16年 – 18年

  • 戦時下における消費生活の合理化、戦時割当性のための基礎資料を得るため
  • 2000世帯から8,060世帯に拡大、18年まで毎年実施された
  • 戦争中の混乱で製表されず、昭和52年、16年10月- 17年9月の主要結果のみ刊行

昭和21年

  • 「消費者価格調査 Consumer Price Survey(CPS)」から再開
  • 公定価格とヤミ価格が混在するインフレ下で消費者物価指数を作成するため
  • 全国から28都市、約5,600世帯、消費者が実際に購入した商品の価格を調査 → 家計の支出金額が得られたため、家計の調査として大いに利用

昭和23年7月

  • 「消費者価格調査 Consumer Price Survey(CPS)」+「勤労者世帯収入調査」
  • 家計の収入面も合わせて調べることとなった
  • 2つの調査対象は異なっていたため、家計収支を正しく比較できない欠点

昭和25年

  • 「小売物価統計調査」物価についての調査
  • 同一世帯について、収入・支出の両面を同時に調べる家計調査方式

昭和26年11月から、

  • 「消費実態調査」と名称変更、家計調査が本格的に開始

昭和28年4月から、

  • 「家計調査」、28都市、4,200世帯

昭和37年7月

  • 主要都市から全国の市町村に拡大、170市町村、約8,000世帯

昭和47年7月

  • 沖縄復帰に伴い、沖縄県を調査地域に加える

昭和53年1月から

  • 168市町村、約8,000世帯で調査

総務省統計局

地域実態調査

横山源之助の1899(明治32)『日本之下層社会』が有名

  • 明治中期の都市の貧民や職人,製糸、紡績、マッチ製造、鉄工業などの労働者,小作農民の労働と生活の実態を調査した報告書

資料:福祉調査