社会調査法入門第13回

投稿者: | 2022 年 7 月 1 日

第13回をはじめます。


前回は、まず

社会調査の基礎 第10回講義レジュメ 横断調査、縦断調査、パネル調査、コーホート分析とは (関屋光泰先生の社会福祉士受験支援講座・教員日記)を見てもらいながら進めました。

横断調査(cross-sectional study)

調査実施の時点において『複数の研究対象の実態・意識』を調査した結果を,男女別や年齢階級別や収入階級別などに分類して集団の断面を分析します。

縦断調査(longitudinal study)

特定の調査対象を継続的に一定の時間間隔をおいて繰り返し調査します。その実態や意識の変化を捉えることにより、集団の変化とそのタイミングや、変化とニーズの分析等が出来ます。

  • 動向調査・傾向分析
    • 5年ごとに行われる国勢調査
    • 毎年行われる国民生活基礎調査
    • 定期的に調査を行って調査対象集団における特性の変化の傾向を把握していきます。こうして得られるデータを時系列データといいます。
    • 傾向分析では,調査対象の定義は変化しませんが,集団内部の個体は変化します。
    • 例えば、国勢調査では,日本の領土内に居住する人という調査対象の定義は変わりませんが,5年間の間には新しく生まれた人,死亡した人,国外へ転出したり,国外から転入した人などがいて,集団の中身である個体は前とは別の人々を含んでいます。
    • 高齢者の福祉ニーズの出現率が年々上昇しているかどうかを調べる場合でも,65 才以上人口という調査対象集団の定義は変わりませんが,その中身は変化しています。
  • 集団調査(コーホート分析、世代差分析)
    • 同時期に生まれた人口集団を追跡して同一の調査を繰り返していきます。
    • 例えば、高齢者の知的能力が年齢と共にどのように変化するかを調べる場合,横断的調査では1時点でいろいろな年齢の人に知能テストを実施して年齢別に分析します。しかし,高齢であるほど就学年数の短い人が多く,そうした世代的な要因が影響している可能性があるので,年齢の上昇につれて知的能力が本当に変化したかどうかはわかりません。
    • そこで,同時期に生まれた(年齢の等しい)集団を追跡調査します。
    • 集団の中身は違ってもかまいません。つまり,1980 年に 65-69 歳人口について標本調査を実施したら,1985 年には 70-74 歳人口の標本調査,1990 年には 75-79 歳の標本調査というように追いかけて行きますが,標本を構成する個体は各回で異なっています。
  • パネル調査・分析
    • 第1回目の調査相手と同じ相手を繰り返して調査する純粋な追跡調査であり,各回の調査をウエーブといいます。
    • 福祉サービスの効果を問題にする場合,福祉サービスを実施する前と後に調査を行って両者を比較しますが,両方の調査相手は同じ人々でなければ意味がありません。
    • つまり,パネル分析は原因と結果が時間的に前後関係にある因果関係の検討に適した方法です。しかし,パネル調査では1回目と2回目の調査の間に,死亡したり行く先不明となったり重篤の病気になったりして,調査相手の数が少なくなる、何回も同じ調査をするのでうるさがられるという問題があります。そこで,これに似たコーホート分析で代用することもあります。

つづいて、第10回「日本人の意識」調査(2018)結果の概要 に移り、グラフを見ていきました。(第10回「日本人の意識」調査(2018)の結果について

  • 5 年ごとに同じ質問、同じ方法で世論調査を重ねることによって、日本人の生活や社会についての意見の動きをとらえる目的。
  • 1973 年の第 1 回から数えて、今回が10 回目。
  • 調査時期:2018 年6月 30 日(土)~7月 22 日(日)
  • 調査相手:全国の 16 歳以上の国民 5,400 人(層化無作為二段抽出)
  • 調査方法:個人面接法
  • 有効数(率):2,751 人(50.9%)

先述の日本人の意識調査(日本世論調査協会)と合わせて見ることで、現時点で日本人がどう考えているかが、見えてくると思います。


ベネディクト菊と刀』(1946)では、

  • 当時、謎とされていた日本人のことをアメリカにいながらに文化人類学の方法を用いて調べた結果が報告されています。
  • 戦前から戦時中にかけての日本人の生活様式や社会的思考様式が一つの個体として切り取られています。

今回は、SSM調査とその問題点を見ておきましょう。

SSM調査社会階層と社会移動(Social Stratification and Social Mobility)全国調査)は、「日本人の国民性」調査(文部省統計数理研究所)、「日本人の意識」調査(NHK)とともに、日本の三大社会調査の1つとされています。

社会階層とは 、収入や学歴や政治力など、様々な「社会的資源」が、社会全体の中で不平等に分配されている状態のこと(不平等分配の構造)

社会階級は、生産手段を保有するかどうかという1つの尺度により、社会全体を資本家、中間層、労働者に分ける考え方です。

社会階層は、複数のものさしによって通常は連続的に測定し、カテゴリーを作る時は職業によって日本社会全体を分けて考えます。

例えば、自営業層、農業層などは社会階層の考え方の一つで、職業は、様々な社会的資源の総合的指標として考えられています。

社会移動とは、社会階層のあいだを人が移動することと言えます。

日本の社会は、現在においてもなお、身分階層的な構造を残しているといわれています。
しかし、現代日本社会の階層的構造を全体的に概観しうる科学的調査は、これまではほとんどされていませんでした。

そこで、1955年以降10年毎、2005年第6回調査まで、全国の研究者からなる調査委員会によりSSM調査が実施されました。大規模かつ長期間継続されてきた調査として、国内のみならず、海外でも有名です。

2015年「社会階層と社会移動に関する全国調査」(SSM調査)の実施 「中央調査報(No.712)」より ー 東京大学 白波瀬佐和子先生
は、歴史から詳細にわたって書かれていますので、ご参考に。

日本の経済発展や社会構造の変化と日本人の社会移動や階層意識のあいだにどのような関連性があるのかということを分析するため、戦後日本社会において、教育が社会移動をどれだけ促進しているのか、機会均等がどの程度まで達成されているのか、を明らかにするために実施されました。

具体的には、日本社会に、どのような不平等構造(様々な社会的資源の不平等分配の状態:社会階層)があるのか

社会的資源とは、収入や学歴や威信など、人々の欲求対象だが十分には存在しないものを表します。

また、社会的地位(階層的地位、具体的には職業)はどのようなメカニズムで形 成されているのか

社会や不平等に対する認識や人々の社会意識の違いの解明を目的として行われています。

すなわち、日本社会の「後進性」、「身分階層的秩序」、日本人の「階級意識」等を明らかにするために実施されてきました。

社会階層・社会変動を分析する上で、欠かせないデータとなっています。

  • 対象者
    • 1975年の第3回調査までは、男性のみが調査対象
      • 選挙人名簿を用いて無作為抽出を行い、全国の20-69歳の有権者を対象。
      • したがって70歳以上の高齢者は含まない。
      • 1955年当時は、70歳以上の人は少なかった。
    • 1985年第4回調査以降は、20−69歳の男性・女性も調査対象。男女別々にサンプリング。
    • 普通は高齢の女性が長生きするなど男女比に偏りがあるが、SSM調査の標本 は、その偏りは反映していない。
    • 最近の他の調査は、高齢者も対象としているものがあるので、比較の際は注意が 必要。
    • 全国から層化2段抽出法により無作為抽出
    • 他記式個別面接法(2005年調査のみ留置票付加)
  • 質問内容
    • 学歴、職業、収入(経済状況)、社会意識
    • 学歴・職業は、本人のみならず父・母・配偶者にも調査
    • 本人の学卒後初の職業から現職まで、
      従業先・仕事の内容(職種)が変わるごと、全ての職業履歴を尋ねている
    • 親子で同じ職業が多いか(社会移動の閉鎖性が高いか)
    • 親の社会的地位によって本人の学歴に違いがあるか(教育社会学)
    • 女性研究、社会意識、政治意識など
    • 日本の社会学の中で数少ない、国際的に通用する研究成果
  • 調査主体
    • 第1回のみ日本社会学会調査委員会によって実施、
    • 1960年には東京周辺での調査も行われ、
      1995 年は、科学研究費特別推進研究を用いた任意の研究グループ(1995年SS M調査研究会)によって実施されました。
    • 継続的な組織はなく、全国の社会学者が、その都度、組織を作って実施されてきました。
  • 予算
    • 2015年調査は、文部科学省科学研究費補助金の特別推進研究として4年で総額3億円超。

これまでの調査票は、東京大学の社会学研究室で保存されています。

SSM調査のページ-社会階層と社会移動全国調査の解説 by 立教大学社会学部 村瀬洋一先生のサイトでは、これまで調査に携わった人しか語れないことが書かれています。

参考


SSMの問題点

社会調査では、回収率が伸びないことが問題となっています。

特に長時間労働や夜間労働の階層、低学歴や低収入の人、都市部の一人暮らし層の回答が少なくなっています。

1955年のSSM調査では、回収率が80.6%でした。

ロックフェラー財団の資金を得て国際比較調査の一貫として実施。社会学者によ る戦後初の本格的な社会調査でした。

1960年のSSM東京調査では、回収率が62.6%。

1965年のSSM調査では、回収率が71.6%。
研究資金が少なく、安田三郎らによる個人的な努力で行われ、成果は『社会移動 の研究』にまとめられましたが調査報告書は出ていません。

1975年のSSM調査では、2種類の調査票が使用されました。
A票 計画標本4001人 有効回収数2724人 回収率68.1%
B票 計画標本1800人 有効回収数1296人 回収率72.0%

職業威信に関して調査され、パス解析や地位の非一貫性などについて分析が行われました。

1985年SSM調査では、男性A、男性B、女性票と3種類の調査票が使用され、 全体回収率が63.3%でした。

1995年のSSM調査は、約1万人を対象として、A票、B票、威信票の3種類の調査票が使用され、全体回収率が67.5%であり、面接法により適切に行われていました。

  • 1995年までのSSM調査は、全国の大学が協力して実査を行うなど、質の良い データをとるための努力がなされていました。
  • 2005年のSSM調査は、東北大のみが実査の一部を担当しただけで、調査 会社に丸投げ状態でした。その結果、3割程度の回収率となりました。

2005年のSSM調査では、約1万4千人を対象。予備サンプルや補充サンプル等といわ れるものを用いず厳密に計算した回収率は3割程度でした。

  • 若者調査と称するインターネット調査も実施されましたが、回収率が伸びませんでした。

2005年の調査以降は、一部に留め置き法を使うなど、調査法を変更しましたが、回収率が低く、低階層の人が少ない偏ったデータになっていて、階層研究のためには使いづらいデー タになっています。

  • また、韓国と台湾でも調査を行いましたが、これは回収率が低いなど問題があ
    り、データは公開されていません。

2015年の調査は、1万6千人を対象。調査会社に実際の調査実施を委託しましたが、予備サンプルや補充サンプル等といわれ るものを用いず厳密に計算した回収率は4割程度でした。

冬の寒い時期の調査では、高齢のパート女性が多い調査会社の調査員達が一日中、熱心に活動するのは困難ことなども原因の1つとなっています。


つぎに、量的調査と質的調査の2つです。

統計の授業で習っているところとそうでないところなど、確認していきましょう。(参考:量的調査と質的調査 )

社会調査には統計的調査と事例的調査があります。一般には、
統計的研究(調査)は量的研究(調査)、
事例的研究(調査)は質的研究(調査)、
として分類され、使われることが多いです。

この2種類の調査を重ねて行うことによって、
社会の実態の理解に近付いていけます。

今日はここまでにしましょう。